雨の羽犬塚、駅前で出会う中華そば 白龍軒の味
静岡からの出張だった。
午前の仕事が思いのほか長引き、次の訪問先に向かうため羽犬塚駅に降り立ったとき、残された時間は20分ほどしかなかった。
本当は駅近くの「みんとしょかたる」にも立ち寄りたかったが、それはまた次の機会にとっておくことにした。
外は小雨が降っていたが、傘を持っていなかった。
そんなとき、駅から徒歩2分という立地の「中華そば 白龍軒」は、とてもありがたかった。
落ち着いた雰囲気の外観と、「中華そば」の文字が掲げられた白い看板に引き寄せられるようにして、迷うことなく暖簾をくぐった。
店内に流れる、静かな時間
店内は昔ながらの町中華といった佇まいだった。
カウンターとテーブル席がほどよい間隔で並んでいて、厨房の様子も見えるつくりだ。
テレビでは広末涼子の逮捕を伝えるワイドショー的な番組が流れていた。
その中で「島田市」「静岡県」といった地名が聞こえてきて、遠く福岡にいながらも、不思議と地元を思い出した。
昭和31年創業とのことで、この雰囲気にも納得がいく。
飾り気のない壁のメニュー、控えめな照明、やさしく響く声のトーン。
一つひとつが、長く愛されてきた時間の積み重ねを感じさせる空間だった。
店主との会話はほとんどなかったが、挨拶と注文、そして会計まで、やりとりの中にはやさしい笑顔があった。
短い時間ながら、それだけで気持ちが少し和らいだ。
餃子に甘味、とんこつにやさしさ
注文したのは「中華そばセット」だった。
中華そばに焼き餃子、黒ごまがふられたごはん、たくあんが付いて1,250円。
提供までの時間も早く、限られた滞在時間の中で安心できるスピードだった。
とんこつベースのスープは、見た目よりもずっと軽やかで、やさしい味わいだった。
脂っこさが抑えられていて、飲み終えた後の重さがない。静かに身体に染みていく感じがあった。
細めの麺とよく絡み、チャーシューもやわらかく仕上げられていた。
紅しょうがと青ネギ、焼き海苔が、それぞれにアクセントになっていた。
餃子は小ぶりな一口サイズ。焼き目は香ばしく、中の餡からはふんわりと甘味が感じられた。
個人的にはニンニクの主張はそこまで強くなかったと感じたが、これから取引先に向かう身としては、ほんのり残る香りが少し気になった。
その分、食べやすさと親しみやすさのある餃子だったとも言える。
静かに流れる日常の一場面
私が座ったのはカウンター席だった。
すぐ後ろのテーブル席には、父娘と思われる親子が先に腰を下ろしていた。
真正面に見えるわけではなく、背中越しにその存在を感じていたというほうが正しい。
会話の内容はわからなかったが、器の音や小さな動きの気配から、地元の人に親しまれている場所なのだと伝わってきた。
特別なことはない。ただそれだけで、この店の雰囲気がよくわかった。
「間に合った」だけではない満足感
20分という短い自由時間だったが、なんとか食べ終えることができた。
駅近くに、こうした落ち着いた町中華があることは、とても心強いと感じた。
急ぎ足ではあったが、「来てよかった」と素直に思えた。
次に羽犬塚を訪れるときには、もう少し時間を取って、この味をもっとゆっくり味わってみたい。
そう思える昼食だった。
店舗情報
- 店名:中華そば 白龍軒
- 住所:福岡県筑後市山ノ井189-2
- 営業時間:11:30〜23:00
- 定休日:第2・第4水曜日
- アクセス:JR羽犬塚駅より徒歩2分
- 電話番号:0942-52-2339
- 創業:昭和31年(1956年)